クラッチの切れ具合とスプリング圧の関係(TPP News 2005/3)

なぜスプリング圧が高くなるとクラッチの切れが悪くなるのでしょう?

近年のカスタムシーンにおいて、どんどんエンジンは大きくなり、アフターマーケットのクラッチに、これでもかというほど重いスプリングが装着されてきました。そしてこれらのクラッチレバーワークを軽減させる為に仕方なくイージーボーイ等を装着します。しかしこれは、クラッチを切り離す量を減らして軽くする為に「ニュートラルに入らない」、「クラッチが切れない」、「トランスミッションが割れた」と言う苦情ばかりか、それでもまだクラッチが滑るのでさらに強力なスプリングを付け、さらに切れが悪いという悪循環に陥りまさに八方ふさがりの状態になってしまいます。

ほとんどのハーレーのクラッチはワイヤーで操作されます。そこでスプリング圧が高くなると切り離し機構のボール&ランプ部分やレバーとケーブルの取り付け部分等が圧縮され、切り離し量が減る為です。したがって、強化スプリングを組み、スプリング圧力を高くするほど切れは悪くなります。また、その強烈な圧力のかかったスプリングを引っ張る際にケーブル自体が伸びるため切り離し量が少なくなるということも大きな原因のひとつです。 このように、強化スプリングによって切り離し量が減ったところへ、クラッチワークを軽くする理由でイージーボーイ等にたより、さらに切り離し量を減らしてしまっているのです。

結果、切れが悪くなりどんどんアジャスタースクリューを締め気味にし、レバーの遊びはほとんど無しというセッティングになります。そうするとなんとか切れるようになったが走るとどうも滑るようだ。なぜでしょう?アジャスタースクリューを締めてレバーの遊びがなくなると、クラッチプッシュロッドとプレッシャープレートとのクリアランスが無くなり、どんなに強いスプリングを付けてもプッシュロッドが突っかかっている為にスプリング圧力はクラッチ板には伝わっていないのです。

ボール&ランプにまつわる話から

エンジンチューンで有名な Zippers社 では強化スプリングへの対策としてイージーボーイなどの軽量デバイスではなく、2000年以降の21°のボール&ランプを使用するようアドバイスしています。この理由は、1999年までの18°のボール&ランプがノーマルスプリングで約3mm近く切り離すのに対して21°では約4mm切り離すことができる為です。この2000年以降モデルのボール&ランプ変更の背景には、この年からソフテイルにバランサーが採用され、振動が減った為クラッチ板が離れにくくなったからという説があります。もっと切り離し量が必要だと判断されたのでしょう。 ちなみにMRC社の14.4
°だと約2mmしか切り離しません。エンジンが強力になりそれに対してクラッチスプリングを強化。そしてクラッチ切り離し量を減らすデバイスを取り付けるのは諸悪の根源という事がお分かりになると思います。

参考までに油圧クラッチ

また純正の油圧クラッチキットは装着だけで約30%も軽く操作が可能になります。実はこの油圧キットは少々切り離し量を減らして軽く操作出来るようにしています。切り離し量を減らしても切れや操作に問題が生じないのは、ワイヤーと違って液体は伸縮(圧縮)の影響がない為にきっちり切れるのです。

では、VPクラッチはどういう機構なのでしょう。

他で見られるイージーシステムのように、何かでクラッチレバーを握る力を増強したり引き離し量を制限するものではなく、VPクラッチは根本の圧力を低くしてあるという事がポイントです。スプリング圧を低く設定しエンジン回転の上昇に合わせて遠心力が上がり、エンジントルクに合わせて必要な圧力をクラッチに与えるという機構です。アイドリングからよくシフトチェンジする3000回転あたりまでは軽く操作できます。

前述した機構説明から考えると、スプリング圧が低い事はノーマルよりも切れが良いという事です。切れの良さはトランスミッションにもやさしいのです。その為にクラッチの繋がる位置は遠くなりますが、レバーのあそびを多く取ってやればいいですし、そうすれば手の小さなライダーにも操作しやすくなります。 逆に4000回転以上ですとノーマルよりも圧力は上がりクラッチ自体も重くなります。が、4000回転以上というとほぼ全開状態でありシフトアップ(ダウン)も一瞬で、その回転域でのクラッチ操作を必要とするシーンは「サーキットランなどの競技やワインディング」くらいのものでしょう。

そのシーンにいた場合でも、おそらくはライダーはアドレナリン噴出でクラッチが重いと感じられる事はないと思います。 001 Standardはツインカム1450cc、 002 Deluxeは1550cc, 010 RWは1690ccと、それぞれのトルクカーブに合わせて設計されています。それ以外のさらに大きな排気量(もっと低回転でトルクが出るエンジン)にはScreamingEag1eのダイヤフラムスプリングに交換してRWを使用すれぱ、実に124cu.in.(約2000cc)までの対応を確認しています。

クラッチディスクの選択肢

クラッチデイスクは、Kevler等いろいろなものがありますが、テスト結果ノーマルのデイスクが一番良いという結論に達しました。

2004年以降モデル ヘリカルギア・トランスミッションについて

2004年以降のビッグツイン(日本仕様のみ)はヘリカルギアを使用したトランスミッションに変更されています。アフターマーケットでもヘリカルギアトランスミッションが売り出されてますが、このタイプのトランスミッションはアジャスタースクリューを、VP装着にかかわらず、サービスマニュアルの通り1/2から1回転戻さねば5速(または6速)で負荷をかけるとクラッチが滑るのでご注意下さい。

以上長々と書きましたが、VPクラッチシリーズは、ハーレー社のサービスマニュアルの通りに調整が可能な唯一のライトクラッチキットです。
これからもよろしくお願い致します。