これはもうすばらしいの一言。なぜもっと早くこのスプリングを作らなかったのかという疑問が沸くほどに単純なものでした。
2006年モデルが店頭に並び始めたましたが、すでにご覧になられた方も多くいらっしゃる事でしょう。各ファミリーにH-Dらしい新しい取組みが施されて、とても魅力的なNEWモデルとなりました。特筆すべきはクラッチの軽さです。皆さんは2006年モデルのクラッチを動かしてみましたでしょうか?
私は7月に本国で行われたディーラーショーでは展示車のクラッチレバーを片っぱしから握りしめて回ってみました。握り始めは今までと変わらない感じがするのですがあるところからスウッと軽くなります。まさかコレは・・・。スプリングを入手するまでに仮説は立てておりましたが、今巻では、[なぜ軽いのか?] [この新しいスプリングの何がそんなに良いのか]を検証していきます。
まず左の写真のように05年までのスプリングと06年のそれを比べてみましょう。下が02年のスプリングで上が06年のスプリングです。05年までのものは約1.8mmの厚さでしたが06では0.2mm薄い1.6mmとなりスプリングの角度が急になっています。重要なのはこの肉厚の減少と角度にあります。
検証、測定するためにボール盤やこれらのツールを使用します。ちなみに今回使用しているライトブルーのビレットプレッシャープレートは新製品のものです。そして、テスターゲージは前回用いた300lbまでのものから、今回は600lbまで計測できるものに変更しました。
このようにセット地点(リテーナーがハブにボルトで締め付けられた状態)からクラッチを切る(レバーを握る状態)状態を再現するためにスプリングを圧縮します。
(ボール盤は回転させているわけではなく、上から押さえつけているだけです)
ここで知っておいて欲しいダイヤフラムスプリングの良さの一つとして、クラッチレバーを握り、スプリングを圧縮していくとダイアフラムが反り返るフラットあたりから圧力が減る事で、レバーを握りきっている状態では、コイルスプリングと比較して断然軽いという利点があります。
実際に2005年モデルまでのスプリングでも、セット値300lb前後からマイナス20lbという差が発生していました。握り始めの圧力と握りきった圧力に20lbの差があるという事です。(スプリング圧で)
2006年モデルに採用されたNEWスプリングは、この差に目を瞠るものがあります。
セット荷重約300lbは~05年のスプリングとほぼ同じ値です。セット地点からクラッチを切る状態にするためさらにスプリングを圧縮します。
圧縮してクラッチを握りきった(クラッチを切った)状態
いかがですか?分かりにくければもう一度画像を見比べてください。スプリング圧は一気に100lb近く減少している事がお分かりいただけると思います。しかも、静止画ではお見せできないのが残念ですが、減圧はフラットになる前から始まります。今までの常識で考えればこの圧力の落ち方は尋常ではありません。
セット値は05年までと同様(握り始めは軽いのかどうか分からない)しかし、始めて少しすると一気に軽くなり、一旦握り切ればレバーを押さえておくユーザーの握力の負担はきわめて少ないものになります。これは本当に単純かつすばらしいスプリングなのです。
さて、一通り2006年NEWスプリングの評価をしたところで、ここに我々のVPがどう絡んでくるかということですが、VPの仕組みをおさらいしたい方は [ クラッチの切れ具合とスプリング圧の関係 ]をもう一度ご覧になってください。
ボール&ランプについても2006年モデルからは1999以前の18度が採用されましたので、VPクラッチを装着すれば、最高の感触と握り始めからの軽さを実現出来る事でしょう。
事実、この原稿を書きはじめた段階ではまだ2006年モデルに装着できていませんでしたが現在ビッグツインのテストが完了しました。VP装着後の初期荷重減少とマッチしてすばらしいフィーリングが得られています。「急に軽くなるあの現象」のおかげで、軽くなりすぎて握り応えがないという贅沢な表現もできなくなってしまいました!
私個人としては、NEWスプリングを開発したHDMCの技術陣を高く評価すると同時に、我々チームと同様のクラッチの切れやボール&ランプ、スプリング圧の研究が成されていた事はH-Dを愛すべき技術がまるでひとつになったようで、ある意味痛快であり、またうれしい限りなのです。
さて、今回の Tech Tip いかがでしたでしょうか。
「なぜ?」がおわかりいただけましたか?